最終修正日: 2024年3月29日
一般財団法人公正研究推進協会(APRIN)
慢性リンパ性白血病(CLL)では、フルダラビン(ヌクレオチド系抗腫瘍性代謝拮抗剤)およびアレムツズマブ(ヒト化抗CD52モノクロナール抗体)不応性患者、あるいはフルダラビン不応性で5 cmを超える大きさのためアレムツズマブ治療に適さない患者に対する新規治療が望まれていた。そこで、これらの患者を対象とし、オファツムマブ(ヒト型抗CD20モノクロナール抗体)を単剤で投与するワン・アームの臨床試験が実施され、その中間結果が報告された。主要エンドポイントは、全奏効率で、客観的な1996 NCI-WG criteriaが使用され、そのデータは独立した委員会(独立データモニタリング委員会)で検討された。138名の患者データが解析され、全奏効率は前者では58%、後者では47%と高い値を示しかつ安全性も想定されたものであった。
当該臨床試験は、予後が著しく悪く、薬剤不応性の極めて少ない患者を対象とするものであり、ワン・アームのデザインは妥当と考えられる。なお、FDA(アメリカ食品医薬品局)は、CLLにおいてこのオファツムマブを迅速承認している。
William G. Wierda, et al., Ofatumumab As Single-Agent CD20 Immunotherapy in Fludarabine-Refractory Chronic Lymphocytic Leukemia. Journal of Clinical Oncology 2010 28:10, 1749-1755.FGFR遺伝子変化を保有する切除不能な尿路上皮がん患者に対するエルダフィチニブ治験例
2019年4月、FDAは、感受性線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)遺伝子変化を有する局所進行または転移性尿路上皮がん患者でプラチナ製剤を含む化学療法後に病勢進行が認められる患者に対するエルダフィチニブの迅速承認を付与した。本試験は単群多施設共同試験である(NCT02365597)。対象患者が限られており、対照群を研究内で置くことが難しかったため、米国の地域がんクリニックから得られたカルテデータをもとに外部対照が作成され、申請書に含まれた。このようにリアルワールドデータのような外部データを対照とした事例も近年増加傾向にあるが、外部対照は未調整交絡、アウトカムデータの欠損、選択バイアス等、多くの問題がある点に留意することが重要である。
FDA “NDA Multi-disciplinary Review and Evaluation of BALVERSA (erdafitinib)”.通常の降圧薬の服薬が朝(6-11時)か夕(18-23時)かで、血圧指標に変化があるかを調べたランダム化クロスオーバーデザインによる臨床試験。前半の12週間に、朝服薬するか夕服薬するかは、ランダム化される。後半の12週間は、前半とは異なる服用方法を行う。ベースラインと12週目、24週目にABPM(Ambulatory Blood Pressure Monitoring, 24時間自由行動下血圧測定)にてデータを取得する。血圧の測定方法や機種は詳細に決められている。
クロスオーバーデザインは、個体間のヴァリエーションを考えなくて良いため比較的少数での試験が可能である。検討点として、測定が服用方法を変えてから12週後なので、持ち越し効果はないものと考えてよいだろう。また。評価方法も主治医による血圧測定ではなくABPMなので、客観的な測定といえよう。
Poulter, Neil R., et al. Randomized crossover trial of the impact of morning or evening dosing of antihypertensive agents on 24-hour ambulatory blood pressure: the HARMONY trial. Hypertension 2018 72.4, 870-873.心房細動および心不全を伴う患者に対するカテーテルアブレーションの効果は示されてきたが、これまでの試験では末期心不全患者は除外されていたので、この患者グループでの効果は不明だった。当該臨床試験は、症候性心房細動のある末期心不全の患者を対象に、カテーテルアブレーションとガイドラインに基づく薬物療法を行う群97名と、薬物療法のみを行う群97名に無作為に割り付けた研究者主導単施設非盲検試験。主要エンドポイントは、全死因死亡、または左心補助人工心臓の植込み、または緊急心臓移植である。開始から1年後に、カテーテルアブレーションとガイドラインに基づく薬物療法を行う群の優位性が示され、データ安全性モニタリング委員会から研究の中止が勧告された。ディスカッションでは、当該臨床試験の限界として、単施設で実施されたものであったこと、勧告により途中で中止したため、長期予後は明確ではないこと、盲検化していないのでエンドポイントに係る治療選択に影響した可能性を挙げている。
当該試験ではカテーテルアブレーションが片方の群で実施されるので、盲検化は困難であろう。また、この臨床試験で無作為化を行なっていなかったら、New England Journal of Medicineに採用されるのが困難であっただろう。
Sohns, Christian, et al. Catheter Ablation in End-Stage Heart Failure with Atrial Fibrillation. New England Journal of Medicine 2023. DOI: 10.1056/NEJMoa2306037無作為化比較試験では、原則「実際に治療したかどうか」ではなく、その被験者を「治療しようとしたかどうか」が重要であり、無作為化されたすべての症例を解析に用いることが推奨されている。無作為化されたすべての被験者を「治療しようとした集団、Intention to Treat、ITT集団」と呼ぶ。解析はITT集団を対象に、無作為化された群により比較を行う。無作為化試験の科学的な信頼性は、無作為化によって裏付けられるため、実際に使用した薬剤で群を分けると、ランダム化によって得られた比較群間の均衡が崩れてしまう可能性があるからである。
ITT集団の中から一度もプロトコル治療を受けていない被験者や、有効性を評価するデータが一つもない症例を除いた集団を「最大の解析集団、Full Analysis Set、FAS」と呼ぶ。一般的に無作為化比較試験ではFASを主解析で用いることは許容されている。
FASからプロトコルに準拠しなかった被験者を除いた集団を、「プロトコルに準拠した集団、Per Protocol Set、PPS集団」と呼ぶ。プロトコル不準拠症例を用いることで、ITTやFASでは治療効果は出にくくなると考えられるが、PPSでは、無作為化による比較群間の均衡が崩れ、結果にバイアスを生じることがある、またPPSを用いた解析では、より偏った集団を対象にすることで結果の一般化がより困難となることがある。
ITTやFASによる解析では実際の治療効果が過小評価されることがあるため、実際に得られた結果の頑健性を確認するために、副次的な解析としてPPSを用いた解析を行うことがある。
安全性の評価には、割り付けられた群によらず、実際に被験治療を受けた被験者のみを対象とした、Safety Analysis Set, SAS(安全性集団)を用いる。非劣性を目的とした試験では、PPSを主解析、FASを副次解析に用いることもある。どの解析に用いるのはどの集団のデータなのかをあらかじめ決めておく必要がある。
介入等前向き研究では、できる限り、統計学的手法を用いて必要最低限の症例数をあらかじめ計算する。症例数が少な過ぎれば、臨床的に意義がある結果であっても、統計的に有意な結果を出せる見込みは小さい。多すぎれば、不必要に多くの被験者をリスクを伴う研究に参加させる等倫理的な問題や、研究期間が長くなる、コストが必要以上にかかる等の問題が生じる。一方、症例数が確保できない希少疾患対象等の臨床試験や先行試験のない早期臨床試験では、実施可能症例数を設定することがある。優越性、同等性、非劣性を目的とする場合、各目的において症例数計算の方法が異なるので留意すること。
無作為化等比較群間の背景が無作為化等により揃っていると考えられる場合は、統計解析の種類は、単変量解析等比較的シンプルなものが用いられるが、無作為化が行われず比較群間の背景にズレが生じている場合は、多変量解析等を用い背景の違いを解析で考慮する必要がある(多変量解析に関しては、観察研究で詳細を説明している)。研究計画書には、できるだけ網羅的に、どの項目に対してどの検定(又は記述統計量)を用いるか詳細に記載する必要がある。研究計画書にすべて記載できない場合は、別途統計解析計画書を作成する。
例)イベントの有無をエンドポイントとした研究では、研究途中でのデータの抜け落ちを考慮できる生存率解析等が用いられる。そのためには、イベントの起こった時間、最終追跡時点等時間の情報が必要である
前向きの介入研究では原則、研究計画時に見積もられた症例数に到達するまで試験を継続し、研究終了時に初めてデータ解析を行うが、長期に及ぶ研究では、研究途中で結果を評価する中間解析が行われることがある。
中間解析の目的は、①評価中の治療法が対照治療に比べより効果があることを見る(有益性)②逆に害になっていることを見る(安全性)③結果に差がなくこれ以上研究を続けても意味のあるエビデンスが得られない(無益性)の3つがあげられる。
中間解析では、何度も解析を行うことで、擬陽性の確率が上がるといった多重検定の問題を防ぐために、有意差を評価する基準をより厳しく設定するなど注意が必要である。
中間解析を行う場合は、いつ、どのようにして行い、何を基準にしてどういうアクションをとるのかという詳細を前もって決めておく必要がある。事前に設定されたルールもなく、研究途中で解析を行い、その結果研究デザイン等が変更された場合、研究者が良い結果を出すために作為的に操作したと批判されることも多く、研究の信頼性を揺るがすことになりかねないので、中間解析については慎重に議論される必要がある。
例)欠損値を考慮しない解析は、欠損のない症例(コンプリートケース)のみを用いているため、コンプリートケースを用いて、比較群間に背景の偏りがないか確かめることが重要である。例えば、被験薬は副作用を伴い、副作用のある人は研究から辞退している場合、コンプリートケースのみを用いた解析では、無作為化が機能せず背景のずれが生じることがある。
研究対象者になんらかの健康被害が発生した場合、違法性(過失)がない場合は補償、違法性(過失)がある場合は賠償の対象となる。規制上、補償措置を講じることが求められる研究については、国大協サービスの「臨床研究、人を対象とする研究と保険について」が詳しい。
https://www.janu-s.co.jp/human_research_insurance.html
一般診療における補償制度としては、医薬品副作用被害救済制度があり、臨床研究の一般診療部分については、この制度が使える場合がある。補償の内容については、補償しない場合を含め、研究計画書、説明同意文書にその旨記載し、倫理委員会の承認を得る必要がある。